かけら ほのか 中編
菊丸が部室に遊びに来てから、その後はあっと言う間に時間が過ぎていった。
気が付けばもうすぐ年も終わるというところまできていて、町はクリスマスなどのイベントで賑わっている。
今日で終業式、学校も終わってしまった。
自分の周りのものが目まぐるしく変わり、終わりを告げていく。
折角早く終わったのだから、練習時間は沢山有ると思っていたのに先生の都合で今日は部活が休み。
どうせあと少ししたら年末だからと言って暫く休みになるのだし、今日くらい部活があって欲しかった。
そんなことを思い、不服そうな顔をしながらリョーマが学校を出ようとしていた。
すると、なぜだろうか母親が家を出る時に言っていたことを思い出した。
今日は、なるべく早く帰ってきてね。
朝は急いでたし、なんのことか解らなかったけど、よく考えてみたらその言葉の意味が解った。
今日は12月24日。
自分の誕生日。
多分、色々と準備をして待っていてくれているに違いない。
とはいうものの別に誕生日だとかクリスマスだとか記念日というものに執着があるわけは無い。
正直言ってどうでもいい。
どうせ、自分が一番欲しいものは手に入らない事が解っていたから。
「あれ?越前…もう帰るの?」
突然後ろから声を掛けられる。
それが誰かはすぐに解った。
ただ、まさかこの人にあえるなんて思っていなかったか驚いただけ。
「不二先輩…」
ずっと会いたいと思っていた。
まさかこんな時に会うことが出来るなんて。
「久しぶり、元気そうでよかったよ」
「先輩こそ、元気そうで…」
緊張からか上手く言葉続かない。
「で、今日は部活休み?」
「なんか、先生の都合が悪いみたいで休みです」
久々に見る姿。
落ち着いた、優しい声。
なにより自分が好きな笑顔。
この人は何も変わっていない。
想い続けていた時のままだ。
「で、今日は部活もないしさっさと帰ろうってわけ?折角休みだし、クリスマスイブなんだしどっか出かけたりしないの?」
「いえ、別に…」
久々に耳に入ってくる声だけで嬉しくて
顔を見たいのに恥ずかしくって見ることが出来ない。
顔も上げない、言葉も少ない。
そっけないと思われたりはしないだろうか。
本当はもっと沢山話がしたいし
ちゃんと不二の顔を見たいのだけれど。
「じゃあ、あまり足止めするのも悪いしこの辺で。寒いから風邪とかひかないように気をつけるんだよ」
「先輩も…」
やはりこの人は以前のままだ。
この優しさがなによりも好きだって、ゆっくりと自分の傍から離れていく不二の後姿を見ながら、リョーマは思った。
自分の想いを彼に打ち明けるつもりはない。
今の関係を壊すようなことはしたくないから。
だから、このまま彼を見送ればいいのに。
けれど最初は小さなかけらでしかなかった不二への想いは、この出会いで大きくなってしまったのは確かで。
告白する勇気なんて無い。
だからこんなこと思うのは可笑しい。
でも、もう少し彼と一緒にいたい。
今年は誕生日プレゼントも、クリスマスプレゼントもいらないから
だから少しだけ
ほんの少しでいいから勇気をください。
「不二先輩!」
すっかり自分と距離が離れてしまった不二をリョーマは追いかけた。
「何?」
「もし無理なら断ってくれていいんですけど…」
握り締めた手が震える。
声も同じく震えていて、本当に情けない。
「この後、特に予定がないんだったら…俺の家来ません?」
「えっ?」
そういい終えた後、リョーマは慌てて自分の口に手を覆った。
何を言っているんだ。
いや、確かに根本的な内容は間違ってはいないのだが。
しかし、これではあまりに酷すぎる。
まるで告白ではないか。
「いや、あの…今日部活無くて練習できないから、相手になってくれないかなって…俺の家にテニスコートあるんで」
「ああ、そういうことね」
不二はそう言って、いつもと変わらない笑みを浮かべる。
「いいよ、今日は特に何も無いし。折角越前が誘ってくれたんだしね」
「ありがとうございます!」
練習相手なんて唯の口実に過ぎない。
自分の家でなくても別に構わない。
ただ、不二と一緒に居たいと思っただけ。
その後、不二とリョーマはお互い横に並んでリョーマの家に向かって歩いていく。
その間に二人は他愛の無い話をして盛り上がっていたけど、
まだ手が震えたままのリョーマはそれを悟られないように必死に平気ぶっていたことを
きっと不二は気が付いていない。
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原作の余裕たっぷりな姿も好きですが、こんな取り乱し様子も見せてもいいんじゃないかと…!
だってまだ中一ですもの!
2006.12.11