かけら  ほのか        後編





「そうだ、ちょっと公園よってもらってもいいかな?」


突然そう言い出したのは不二。





「なんでまた?」



「まあまあ、すぐ終わると思うから付き合ってよ」

「…いいっすけど、寒くないっすか?」





緊張がほぐれてか、不二の前でもいつも通りに話せる様になってきたリョーマが、少し嫌そうに答える。

先程の彼の様子から考えるとこれだけでも充分な進歩だ。



そして、口ではそんなことを言いながらも不二に歯向かいはしない。

リョーマの足は着実に公園に向かっている。






「いや、寒いからなんだけどなぁ…」



公園に向かう際、そっと不二が呟いたのをリョーマは気づいていなかった。







「じゃあ、なんか温かい飲み物買ってくるからさ。先に入って待ってて」

「そうっすか、じゃあお金…」

「いいよそんくらい。何買ってくればいい?」

「…ファンタ」

「僕の話ちゃんと聞いてた?好きなのは解ってるけど、何か温かいものにしなさい」



越前が寒いって言ってたから買ってくるって言ったのに…変なの。




不二が笑った。

いつもの様な優しい微笑とは少し違う。

本当に自分の言った事が面白かったのか、心の底から笑っている感じ。



こんな顔を不二は自分のことだけを思って見せてくれている。

それだけで嬉しい。






「…じゃあ、ミルクティーでお願いします」

「了解」



不二は自販機の方へと歩いていった。














学校からここまで、ほんの僅かな間だけ不二と一緒に居ただけだというのに。

それだけで充分リョーマは幸せだった。



こんなに嬉しい誕生日は今日が初めて。

誕生日だ、クリスマスだとそんな風に周りの人が、何かある毎に特別な日を大切にしている理由が自分にも少し解った気がする。








だから、もうこれで充分だと思っていたのに。














「おまたせ」

そう言うと同時に不二から手渡されたミルクティー。



手からじんわりと温かさが伝わってくる。

その柔らかな暖かさがまるで不二そのもので、思わず笑みがこぼれそうになる。






すると、自分の首周りにふわっとしたものがかかる。



「はい、これも」

言葉と同時に、マフラーを巻かれた。






「ええ!なんすかこれ?」

「何って…プレゼントだよ、僕からの」



不二からジュースをおごってもらったという事で充分一大事だというのに、こんなプレゼントまで貰うなんて。

しかし、自分は…



「どうしよう、クリスマスプレゼントなんて…俺なんにも渡せそうなもん持ってないっすよ。金もそんなに持ってない」

「いいよ、そんなの。僕が勝手に買って、勝手に渡しただけなんだし」

「でも、そんな俺ばっかり!」






「いいって、それは越前の誕生日プレゼントのつもりで買ってきたものだから」









ここで信じられない言葉が不二の口から出た。

どうして自分の誕生日を知っているのだろうか?

部活を引退するまでの間に、一度もそんな話をした覚えが無いのに。






「なんで、俺の誕生日を?」

「知ってるよ、越前のことだもん。僕はずっと君の事を見てたから」



「それでね、願掛けしてたんだ。

 引退してから今日、越前の誕生日まで…その間に絶対越前に会わないようにして、今日偶然を装って越前の前に現れようって。

 もしその時に、帰っていこうとする僕を君が止めてくれたら、告白しようって」



「好きなんだ、越前のことが。

 初めて会った時から、今日までずっと。そして、これからもずっと好きでいるから」













他人の言った事に耳を疑うというのはまさにこんな状況なんだと思った。





自分のことが好きだって?

そんなの自分だって…




「嘘…。だって、俺もずっと先輩のこと」






ずっと、見てた。



でもこんな想いを先輩に…男の人に抱くなんて可笑しいんだって思っていた。

叶う筈ないから、このまま終わっていくんだろうって決め付けていた。

不二にこの想いが届かなくても、ずっとこの想いを胸に潜めたままでいようと思っていた。



でも今、目の前の不二は真剣な眼差しで自分を見てくれてる。

きっと、さっきの告白は嘘ではない。

今の彼なら冗談でそんなこと言うようなことはしない。











「俺、も…ずっと先輩のこと見てました。

でも、先輩は俺のことなんか全然気にしてないって思ってて。

だから、このまま何も先輩に言わないまま卒業して行っちゃうんだろうなって、でもそれでいいって思って。

けど、今日先輩に会ったらこのまま別れるのは嫌で、すっごい緊張したけど先輩に声掛けられて本当によかったって。

それでもう、俺は充分嬉しかったのに…」







「あの、俺も初めて会った時からずっと先輩のことが好きです」









手から伝わる温もりも、首から感じる温もりも

総ては彼が関わったものだから、余計に強く感じるもので。



そんな風に想ってもらえるなんて考えてなかった。







あまりに突然なことで、心はまだ落ち着かない

自分でも何を言っているのか解らないけど、自分も不二のことを好きだと



それはちゃんと伝えたつもりだ。








「そっか、じゃあお互い出会った頃から僕たち両想いだったんだね」



よかった、と自分の横で不二が呟いた。






「本当に、緊張したんだ。今まででなにより。

 学校を出る前に声かけた時、なんか不機嫌そうだったから…嫌われちゃったのかなって思ってたんだ。

 でも最後は、そっちから声を掛けてくれて本当に嬉しかったんだよ」



「あれは…あまりに突然会ったからびっくりして」

「そうだったの?ならよかった。

 で、それから色々話したでしょ?その時にどうにか嫌われてはないかなって思ったからさ。思い切って告白してみた」






そう横で話す不二は、今まで見たことがない人のようで。

本当によかった、本当に緊張した。

そう言っている彼が、身近に感じれて。






ますます、彼のことを好きになってしまいそうだ。






「本当に嬉しい。ありがとうございます、不二先輩」

「こっちこそ、僕はもうすぐ卒業しちゃうけど、これからもずっと一緒にいようね」



「はい!」














彼への想いは最初はほんの小さなかけらだったのに、

それは見る見るうちに大きくなってしまって

今ではかけらとはいえない物になってしまった。






そして、これからもそのかけらとはいえない物がどんどん大きくなっていくんだと思う。



それはこれから二人で一緒に居ることにより大きなっていくもので

それがきっと幸せだという証になっていくはずだから。













「誕生日おめでとう、越前」







その一言が自分にとってはなによりも掛け替えのないプレゼントなんだ。






























前サイトで去年リョーマの誕生日祝いで書いたものでした。
基本片思いから両思いへの流れを書かない奴なものですから、たまにはこんな視点も楽しかった覚えが有ります。
タイトルは隙間スイッチから、歌の感じとかではなくタイトルに惹かれて。

2006.12.11