嫌われたくないのに―――
アイツはそう言った。
どうしてこうも上手く伝わらないのか。
一体、どれだけの言葉を尽くしたのだろう。どうしてまだ、届かない?
そもそも三橋廉は今までに会ったことの無いピッチャーだった。
寧ろ、こんな人間に関わるのが初めてかもしれない。
いつも何かに怯えていて、ろくに思うことも言えてない。
姿を見る度にイライラした。
しかし、怯えながらも自分を慕ってくれている、懸命に答えをしめそうとする。
精一杯なんだと解った途端、抱く感情に変化が訪れた。
本人には『いつ嫌いなんて言った?』などと言っておいたけど、本心は寧ろその逆。
誰よりもお前が好きなんだと言ってやりたかった。
「ほんと、なんなんだよアイツは!」
一通り愚痴をこぼした後、最後に阿部は叫んだ。
「阿部、とりあえず落ち着け。周りの人にも迷惑だし…」
「ああ?こんだけごちゃごちゃ周りも喋ってんだから多少怒鳴ったって問題ねーよ」
手元にある紙コップを乱暴に掴み、残り少なくなっていたジュースを飲み干した。
苛立っている阿部の様子に栄口は苦笑いした。
「まあ、そう言われちゃ…凹むよなぁ」
「凹むっつーかありえなくないか?嫌ってるならアイツみたいなめんどくさい奴とっくに見放してるっての」
「阿部にびくびくしてるのは今に始まったことじゃないけど、泣き出すってのがなぁ…どうしたんだろ?」
「解んね。俺がなんかしたかと思ったけど、普通にキャッチボールしようとしてただけだからさ」
「大きい声出してびっくりさせちゃったとか?」
「そんなんじゃねーと思うけど、ただ様子がいつもと違うから大丈夫かって聞いただけで…ほんとありえねぇ」
部活終わりに近くのファーストフード店に付き合わされたと思ったら阿部の愚痴につき合わされている。
彼とは部活の仲間で同中で、共に副主将。
繋がりといえばそれだけだが、阿部からはよく相談を受けていた。
困ったときはお互い様だし、阿部には世話になってるし彼の気が晴れるのならば構わないとは思っている。
ただ、思い出して怒る時に凄い形相で怒鳴りさえしなければの話だが。
「でも嫌われたくないってのは三橋は阿部を好きだから、じゃないのかな?」
「仮にそうだとしても…アイツの好きと俺の好きは違うからな」
「そう…か」
直接聞いたわけではないが、阿部が三橋を好いているのは知っていた。
自分だけでなく、恐らく他の仲間たちも。
阿部の態度を見ていればすぐに解るものだから。
ただ、三橋には一向に伝わっていないらしいが。
それも過去の出来事を考えれば、仕方ないように思える。
あんなことをされたのならば、周りの人間の好意を簡単に受け入れられないだろう。
だが、阿部と接することにより変化が見えてきたのだと思う。
いい形に進んだ変化だと、傍から見ていると思っていたけれども。
「痛感してると、思うけどさ」
「あ?」
「三橋ってさ、やっぱ中学で大変だったじゃん。だから、人と心から接するってなると凄く時間が掛かると思うんだ。
さっき阿部が言ってたのだって、俺たちにとったら意味の解らないことだけど…あいつにとったら重大な事かもしれない」
もう少し待ってあげたら?
気安く言っていいものではないのは知っている。
でも、二人とも相手のことばかり考えてる不器用な人たちなので、いつか報われる日がくることを願ってやまなかった。
01の続きです。
阿部と栄口くんは普通に仲が良いと思います。
次は三橋が想いに気づく〜みたいなのをこのお題内でやります。
2006.12.11